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続きはあとで/木菟

 朝は気怠い。昨日、烈しく抱かれたなら尚更だ。秋声はがっちりと己を抱く腕に触れ、それがどうあっても離れる気がないと悟ると、溜息をついて褥を出ることを諦めた。川端は西洋人形じみた無表情と、あの足跡ひとつない雪原のような色彩とのせいで、清らかな印象を持たれやすい。気難しそう、潔癖そう、というのは司書の弁だったか。だが彼の興味の引くもの、骨董やら同門の人間たち、とくに秋声には焼けつくような情熱を傾けるのだ。昨晩もそれで煮溶かされた口である。
 下半身など違和感しかなく、今日一日動くのに難儀するだろう。と、いつもの諦念じみた受容を以って、秋声は己の身体をあらためた。
「川端さん! ちょっと、起きて! 川端さん!」
 朝という時間にも関わらず、思わず大きな声が出た。問題児だらけの初期図書館、兄貴分や師匠筋のいない図書館をまとめてきた初期文豪の通りの良い一喝は天井を揺らす。四方に人が居住していれば迷惑にもなったろうが、この間練度が最高値に達した祝いに、起居を離れ——便宜上そう呼ばれているだけで、実際はこぢんまりした平屋建の洋館(コテージ)である——に移して貰ったばかりだ。誰彼はばからず声を上げることができる。
「川端さん!」
「……せんせ、あと少し」
「寝ちゃ駄目だよ! 君のが僕んなかに入ったままなんだ!」
 そう、あろうことか秋声の秘部にぐっぽりと川端のものが嵌っているのである。川端の腕から逃れられないのも、足が絡んでるのもいつものことだ。しかし流石に後孔を侵されたままの目覚めは初である。
「…………?」
「訳が分からないって顔しないで! ほら離れるか、この腕をほどいて……」
 秋声はとにかく中から出て行ってもらおうと言葉を重ねたが、途中で尻すぼみになる。後ろもまたきゅんと締まった。返事するように硬いものがぐいぐいと内壁を押し上げる。
「……なに大きくしてるのさ」
「だって、そんな、……」
「君が恥じらうの? あっ、駄目だって、……もう」
 すっかり目覚めてしまったものが、びくびくと痙攣している。麗しい貌を生娘のように紅くさせているくせに、本体の方は随分元気がいい。腹の奥、精嚢の裏を無遠慮に押し上げられて、滲むように快楽が広がる。そればかりか、広がった肉筒の果てからつうと滴るものがあった。排泄に似た快感がぞわりと尾骶を泡立たせる。川端が無遠慮に中出しした精液が、他ならぬ彼自身によって排出を促されている。やだ、と秋声は頭を振った。
「なぜですか」
「……聞かないでくれよ」
 ことさらに秋声の下腹を押し込み、己の形を覚えさせる川端が気づかぬはずもない。羞恥の滲んだ声に、彼は笑ったようだった。微かな吐息が耳の裏をくすぐり、秋声は首をすくめる。
「徳田さん、いいですか」
 川端は甘えるように頬べたを秋声の首に寄せる。言葉こそ許可を求めるものだが、荒い息も太った逸物も、今更止めるなと言わんばかりの状態である。
「……しかたないだろう。僕も男だ、こうなっちゃあ後には退けないって十分知ってるさ」
 秋声は後ろ手を回して、くしくしと川端の頭を撫でた。川端はきゅうとぬいぐるみを抱くように、秋声の小柄な身体を抱き込む。当然ながら尻はますます密着し、届く場所はみんな川端が埋め尽くしてしまう。それでもなお足は絡み、腕は締め付けを増し、凶悪な肉槍が奥の窄んだ場所を突き回すのだ。そこにある皮膚が邪魔だと言わんばかりの癒着ぶり。どろりと腸壁が粘液をにじませ、腹の中でにちにちと湿った音を立てた。熾火で炙るような快楽はもどかしく、内壁がきゅうきゅうと雄にすがりついた。思いっきり擦ってくれていいのに、川端はぬくぬくと奥ばかりを揺らす
「ふ、……こら、あんまり遊んでないで」
「すみません、まだ、もう少し」
「僕はお腹が空いたんだよ……!」
 ぎゅうと意図的に尻を締めると、くっと川端が息を詰めた。びくびくと跳ねる男根が一瞬前立腺を押しあげ、秋声もまたあえやかな声を上げる。とろりと溶けた灰色の瞳が、仰ぐようにして川端を見上げた。
「かわばたさん、おねがい」
「……徳田さん、徳田さん、徳田さん!」
 売女も真っ青な媚びっぷりではあるが、川端には効果的面だったようだ。がつがつと腰を振りたくり、蕾の口から奥の奥まで長いストロークで責め立てる。前立腺から腹の奥の快楽のつぼまで、全部をなめていくような大胆さだ。ようやく白い稲妻の弾けるような悦を得ることができ、秋声は気分よく喘いだ。
「あん、あっ! いいよぉ、川端さん、ひあァ! ね、もっとぉ……お腹ぁ、嬲って……ひゃぁんっ!」
 発情期の猫もかくや、と言わんばかりに声を出すほうが気持ちがいいし、川端の理性も溶ける。あまりやりすぎると歯止めが効かなくなるというか、結腸をブチ抜こうとするので手綱をとるのが重要だ。
 少なくとも秋声は、この一発で全部搾り取るつもりである。
「ふ、でます、でてしまいます。せんせ、ごめんなさい、ごめんなさい……っ」
「あっ、あっ、なら、たっぷりくれなきゃ、んっ……だめぇ、僕も……」
 川端の両手が、秋声の腰をがっしりと掴んだ。一番奥にびゅーびゅーと朝一番の雄汁を叩きつけられる。その衝撃で秋声もまた、己の若茎から白濁を散らした。服の下を汚す液体を洗うのが憂鬱ではある。が、しかし。ここからが肝要だ。
 男はなんて言ったって、射精の後が一番無防備なのだ。
 秋声はじんじんする腹を押さえながら、案の定緩んだ川端の腕から抜け出した。そのまま寝台を降りてしまう。いくら注意深く尻を締めていても、栓がなければ出されたものが落ちてくる。
「……ん、まったく、君、好き放題しすぎだよ」
 浴衣の裾をたくし上げ、秋声は汚れた内股を見せつけた。川端は頰を染めて身体を丸くする。きっとまた股間が元気になったのだろう。
「徳田さん……」
 ぐずぐずと布団に居座ろうとする恋人に、秋声は婉然と笑いかける。
「だめだよ、朝ごはんの時間なんだから」
 続きはあとで、ね? 柔らかく続けられた言葉に、川端はとろりと瞳を潤ませた。

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